オタク・ワンダーランド

好きなものの話とか考えたこととか

MENU

【ネタバレ注意】新刊後書き 同性の恋人と生きるということ

2024年3月17日、HARU COMIC CITY 32にて新刊を……出しました!!

5年ぶり2冊目という経験の浅さ・前回から倍増したページ数・メンブレによる2週間の戦闘不能でとにかく苦しみ、睡眠時間と命を削って人様の助力もいただいて作画も万全でない状態でしたが、なんとか出せました。やはり会場で直接手に取ってもらえること、楽しみにしていたと言ってもらえることは無二の幸せで、頑張ってよかった~……!と思いました。

さてこの記事は、後書きのページに収まりきらなかった長い長い後書きです。本編を新鮮な気持ちで読んでほしいので、本編をこれから読む人は極力本記事を後回しにしていただきたい。今後本編を読む予定のない方はいつ読んでもらっても大丈夫です。また、本編はドエロ本ですが本記事に性描写はありませんので全年齢です。

 

※まだの人はサンプル読んでもらえると話が分かりやすいです!

 

━…━…━…━…ここからネタバレ━…━…━…━…

 

今回、私はこの本が「エロに特化した即物的な本」であるという印象づくりを意図して行ってきましたが、それは裏テーマの隠蔽のためでした。

サンプルでしれっと黒塗りしていたセリフはこれで、

更にエロパートの後、ラスト2ページがこれでした。

つまり、単なるエロ本と見せかけて「結婚」がこの本の裏テーマだったわけです。

このテーマを設定した理由はふたつありました。

①せっかく本にするのだから、期待通りではなく、期待以上の満足感を読んでくれた人に与えたい

②GoRAが男と男の愛をガチでやってくれたのだから、こちらもガチで応えたい

本記事で詳述するのは②についてです。

 

私はAYAKAという作品の主軸が幸人と尽義の愛である、と受け取っています。

GoRAが2人に性的な関係がある前提で描いているとまではさすがに思っていませんが、愛の話であったのは確かです。この2人は互いのために自分の命を投げうてる人間で、実際尽義は幸人のために一度死にます。しかし幸人はそれを許さず、またしても自分の危険を厭わず命脈に飛び込み、尽義を連れて生還する。同原作者の『K SEVEN STORIES Episode6 Circle Vision』において、手を繋ぐという行為は別個の存在である人間が間隙を埋め、ひとつの輪になることのメタファーとして描かれていました。AYAKAにおいてもそれは同様で、幸人と尽義が手を繋ぎ、心を通わせる様子が繰り返して描写されます。これを愛と言わずして何が愛か。これを愛と認めないのは不誠実かつホモフォビック(同性愛嫌悪的)であると私は考えます。

ですが世間はホモフォビアです。特に男性どうしの接触は「腐媚び」呼ばわりされ、多くの男性視聴者から嫌悪される。尽義が女性キャラクターであればこのアニメは数倍のヒットになったのでは……と思ってしまいますが、GoRAは商業的な成功よりも、男と男の愛をやることを選んだ。商売なのにそれでいいのかよ、2期やってくれよと思いつつ、私はそれが嬉しくて仕方がないのです。私は同性愛者であり、現実に存在する同性間の愛情が創作において存在しないかのように描かれることにはうんざりしています。当たり前にあるものが、あるものとして描かれる。これほど嬉しいことはありません。

私は幸人と尽義の愛を性的接触を伴うものと解釈してこういう本を描いていますが、GoRAがこれだけ真摯にやってくれた関係性を安易に性的消費することはしたくありませんでした。それで、此方も抜かねば…無作法というもの…と、漫画34ページ中2.5ページをパートナーシップに費やした次第です。

 

ここからが本題です。

現在の日本の法律下で、同性のカップルは結婚をすることができません。自治体によってはパートナーシップ制度が設けられていて結婚に準ずる関係性を形成することができますが、結婚には及ばず不十分です。

そもそも私が結婚にどんな意味があると捉えているかと言うと、以下の3つです。

①制度上「家族」になる

――扶養・所得控除・法定相続権等の金銭上の優遇措置を受けられる

――同居・協力・扶助や貞操の義務を課される

②他者から「家族」として承認される

――有事の際、病院で面会や手術の同意ができる

――生命保険の受取人になれる

――賃貸物件に2人で入居しやすい

③互いを共に生きるべき人間と認め、覚悟する

これら全てを叶えるのが婚姻制度です。パートナーシップ制度によって(各社の判断次第にはなりますが)②と、③は達成されます。ですので①の部分が現在の法律下で同性カップルが得られない要素であり、同性婚が必要とされる理由、とざっくり理解してもらって差し支えありません。

さて、AYAKAは現代日本が舞台の話なので、幸人と尽義は逆立ちしても①を得ることはできません。でもパートナーシップ制度によって②と③を、特に③を達成してほしい、という願いをこめてつけたのが『ステイ・ウィズ・ミー』というタイトルでした。直訳すれば「一緒にいてください」、シンプルなプロポーズの言葉です。

結婚やパートナーシップで公的に縛られていない関係は、相対的に脆いです。彼氏や彼女と大喧嘩をして、LINEをブロックしてさようならというのは簡単です。長く付き合っていた同性カップルでさえ、そういう話を聞いたことがあります。でも結婚/パートナーシップの縛りがあればそうは行かない。もちろん離婚/解消の選択肢はありますが、基本的には行き違いを解決してこれからも共に生きていこうと試みるでしょう。私はその覚悟を幸人と尽義に持ってほしかった。尽義はちゃらんぽらんだし、幸人も寛大なわけではないので、この先何度だって大喧嘩はすると思います。でも、その度にきちんと話し合って、仲直りをして、ずっとずっと一緒にいてほしい。タイトル『ステイ・ウィズ・ミー』は、そんな私の祈りでした。

 

余談①

表紙とラスト2ページの舞台を風呂場にしたのは意図的な演出でした。

私は『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』においてありのまま・何も隠さない心理状態の象徴としての「裸」が大好きになり、先日『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を鑑賞しに行った際は、浜辺に脱ぎ捨てられたキラとラクスのパイロットスーツを見た瞬間"全て"を理解して泣いたほどです。

今回はせっかくのラブホ本ということもあり、2人が心を通わせる場面は風呂場をセレクトしました。

 

余談②

ラスト2ページ、おでこを出したヘアスタイルは結婚式での正装をイメージしてのものでした。

 

余談③

人外萌えなので、ラストの幸人を「僕は何十年も前からそう思ってましたけど、今更覚悟したんですか?」と龍眼にする案もありました。が、ここは人間・八凪幸人が沙川尽義を選ぶシーンだろうが……!と人外萌えの自分を殴り倒し、現在の形に落ち着きました。

 

長くなりましたが、新刊を手に取ってくださり、こんな記事まで読んでくださり本当にありがとうございました。

普段は思いついたことを何もかもTwitterに書いている人間なので、今回このような裏テーマがあることを隠しているのはなかなか辛かったのですが、その分いい意味でのサプライズをお届けできていたらとても嬉しいです。

改めて、作画や資料撮影に協力してくれた方、原稿を応援してくれた方、春コミ当日スペースに来てくださった方、通頒を利用してくださった方、この本に関わってくださった全ての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました!

 

4/15追記

本は読んでないけどこれを読んだら本が欲しくなった奇特な人向けに、通販ページを載せておきます。読んでもらえると大変嬉しいです!

ec.toranoana.jp